Vol.6 価値あるモノづくりを支える人づくりと「活エネルギー」

社会の変化に伴い、企業を取り巻く環境も大きく変わろうとしています。今の企業が抱える課題は、 CO2削減をはじめとする地球環境保全活動、変化する社会情勢への適応など実にさまざまです。 「エネルギー提言」では、企業活動における重要な課題であるエネルギー活用を中心に、各界のリーダーのインタビュー記事を掲載しております。
今回は、経済ジャーナリストの財部誠一さん。テレビの情報番組でもお馴染みですが、執筆活動の傍ら、主催する政策シンクタンク、 ハーベイロード・ジャパンでは各種の政策提言や、企業のトップリーダーとのリレー対談、最近は中国をはじめとするアジア経済をテーマにした取材活動と、 幅広くご活躍されています。「エネルギー提言」の前編では、日本と世界の経済に詳しい財部さんに、日本経済と製造業を中心とした企業の現状をはじめ、 日本企業が今後目を向けるべきアジアという成長市場、そして企業活動に不可欠なエネルギーについてインタビューし、幅広く語っていただきました。

2008年の秋以降、「100年に一度の危機」だとか「世界同時不況」というフレーズが連日のようにメディアに登場しています。 しかし「100年に一度の危機」の中身は一体何なのか、その検証は行われておらず言葉だけが一人歩きをしているように感じます。 また、「世界同時不況」と当たり前のように言われていますが、本当にそうなのでしょうか。確かにアメリカとヨーロッパの状況は厳しいものがありますが、 中国をはじめとするアジアの経済は危機的な状況にありません。つまり、「世界同時」ではないのです。
こうした認識のズレは、日本の製造業に対しても見られます。日本経済が後退した原因が語られる時、「製造業の外需依存が原因だ。 日本経済は製造メーカーの過剰な輸出に依存して成長してきたから、外需が激減して景気が悪化した」という話がまことしやかにいわれています。 私はその認識は正しいとは思いません。
「『100年に一度の危機』の中身は一体何なのか、その検証は行われておらず言葉だけが一人歩きをしているように感じます」
まず、リーマンブラザーズ破綻後に何が起きたのかといえば、それはアメリカとヨーロッパにおけるバブル経済の崩壊です。「100年に一度の危機」の中身とは、 欧米のバブル経済崩壊なのです。日本にとって不幸だったのは、アメリカと、ヨーロッパが同時にバブルの崩壊を迎え、需要が激減したこと。 バブル崩壊に巻き込まれた日本は運が悪かった、それだけの話です。日本の外需依存が悪いとか、輸出をした日本の製造業が悪いのではなく、 ましてや日本の技術力が劣ったという話ではないのですから、むやみに「ダメだ、ダメだ」と自信喪失に陥ることはないと思います。

日本では多くの人が「日本はモノづくりの国だ」という一方で、景気が回復するたびに「もう製造業の時代じゃない。知財の時代だ。
これからは非製造業の分野で国際競争をすべきだ」という意見が出てきます。'80年代のバブル経済の時も、'90年代も、'02年に景気が回復した時もそうでした。
しかし、実際に日本の産業の中で、世界で圧倒的な競争力を持って戦っているのは製造業です。マンガやアニメといった例もありますが、
日本の産業で製造業に並ぶほどの国際競争力を持っているものがあるでしょうか。日本のモノづくりは世界的にも圧倒的な優位性を持っているのですから、
日本はこれからも一番の強みであるモノづくりで国際競争をしていくべきだと私は考えています。
「景気回復の鍵は、外需ではなく内需だ」との声もよく聞かれます。振り返ってみれば高度成長期以降の日本は内需リードで景気を回復したことはなく、 つねに製造業を中心とした輸出で伸びてきました。人口が減りつつある日本では、今後右肩上がりに経済成長が続き、内需を拡大していくことはそう簡単ではありません。 内需には公共事業もありますが、かつてのような経済効果は見込めないでしょう。そうなると、やはり外需です。国内や欧米のマーケットが伸び悩んでいるのであれば、 成長著しい中国やインドネシアといったアジアのマーケットに目を向ける。日本の企業は、アジアを中心にしたマーケットを今後いかに拡大していくかを考えるべきです。 それは日本が元気になるためにも、大事なことだといえるでしょう。

2008年の秋以降、厳しい状況への対応策として大手企業が実施した生産調整、在庫調整も一段落し、明るい兆しが見えてきました。 しかし、中堅、中小企業の経営環境は変化しており、以前のように「何もしなくても受注が増えて、品質と納期を守っていれば業績が伸びていく」 という状況にはありません。品質や納期は大事なことですが、これからの中堅、中小企業にとって必要なことは、いかにして利益が出る体質に変えていくか、 売り上げを増やすためのマーケティング活動をどう展開していくか、そういった新たなチャレンジです。 新しい経営環境に適応するために中小企業も自らで新しいビジネスモデルを考えていかなければ、今持っている技術力を生かす場がなくなってしまいます。
「中小企業も自らで新しいビジネスモデルを考えていかなければ、今持っている技術力を生かす場がなくなってしまいます」

新しいビジネスモデルで成功した例として、高級タオルの製造・販売で知られる内野株式会社があります。
ここで日本のタオル生産について話をすると、日本のタオル生産は分業制です。糸作り、染色、タオルに織り上げる紡績、
縫製など工程ごとに分業化されています。ビジネスとして成り立っているうちは分業でもよかったのですが、時代的に合理的ではないし、
コスト的にも折り合わなくなってきていました。
もともと内野は卸問屋で、日本のタオルの一大生産地である愛媛県今治市のタオルを仕入れていました。しかし、
'90年以降に中国製の安いタオルが日本に入ってくると、今治のタオルはコスト的に太刀打ちができない。そこで内野が考えたことは、
中国にタオル工場をつくり、高品質なタオルを自社生産するというものでした。しかも、糸作りから染色、
織りまで一貫した生産体制を整えた工場を立ち上げたのです。
これは「人件費が安い中国に工場をつくり、
コスト削減と合理化を図った」という単純な話ではありません。この戦略で注目すべきことは、生産ノウハウを持っていなかった卸問屋の内野が、
日本には存在しなかったタオルの一貫生産を初めて実現し、新しいビジネスモデルの転換に成功したということです。
さらに内野は、中国で生産した高級タオルを日本に輸出するだけでなく、上海の地元消費者に向けて販売を始めています。
「生産ノウハウを持っていなかった卸問屋の内野が、日本には存在しなかったタオルの一貫生産を初めて実現し、 新しいビジネスモデルの転換に成功したということです」

先ほど私は、新しい経営環境に適応するためには新しいビジネスモデルへの転換が必要だと述べました。 ビジネスモデルをどう変えていけばいいのか、その答えは容易に出るものではありませんが、内野の戦略をひとつのイメージとして持ち、 考えてみるといいかと思います。
たとえば中部地区は自動車産業が盛んです。自動車産業も中小企業の場合は、ネジをつくる会社、研磨する会社、 プレスする会社というようにパーツや工程ごとに分業化されているといえます。こうしたさまざまなパーツや工程を請け負う企業が連携し、 互いに技術を出し合って新しい技術や製品を開発し、アジアという成長市場に出て行く。あるいは「自動車のこの部分なら、我々で全部できます」 とアジアに対してプレゼンテーションする。それは決して難しいことではないと思います。
アジアにはその追い風となる動きがあります。それはメイド・イン・ジャパンの再評価です。少し前のアジアでは 「日本製は品質も高いが、価格も高い。日本製の85%のクオリティで構わないから、価格が安い製品がいい」という声が聞かれた時期もありました。 しかし、最近は中国をはじめ、アジアの経済レベルがかなり上がってきており、「多少高くても高品質の日本製が買いたい」「やっぱり日本製だ」 という人が増えてきているのです。メイド・イン・ジャパンの再評価は日本のモノづくりが、さらにバリューアップできる力強い追い風になっていると思います。

モノづくりをはじめとする企業活動はもちろん、現代社会は電気などのエネルギーを活用することで成り立っています。 エネルギーにはさまざまなものがありますが、日本人は電気に対して過小評価ではないかと感じることが多々あります。 たとえば、ごくまれに停電が起きる。すると日本人はみんなすごく怒りますよね。しかし、世界中どこの国でも停電は起きています。 私は海外の製造現場に行くことも多いのですが、しょっちゅう停電になったり、照明が時々ふっと暗くなったりする国や地域は少なくありません。 こうした場面に出くわすたびに、日本の電気のクオリティの高さを実感します。
実は日本のように停電が起きる事態が限りなくゼロに近いこと、そういうクオリティの高い電気が安定供給されるということは、 非常に高度な技術力が日本にあることを意味しています。高品質な電気が安定供給される日本でモノづくりができる、 その製造環境の優位性を日本人はもっと認識すべきでしょう。そして、このクオリティの高い電気というエネルギーを 企業活動の中でいかに効率よく活用していくか、それを考えていくことも大事だと思います。
「クオリティの高い電気というエネルギーを企業活動の中でいかに効率よく活用していくか、それを考えていくことも大事」
次回の更新は10月下旬を予定しています。 引き続き財部さんに、逆境を乗り越える企業戦略や生産拠点のエネルギー、経済の視点で考える環境など、 企業のエネルギー活用や環境活動に関わる話題を伺います。お楽しみに。
私たち中部電力は、お客さまの現場での課題をカスタムメイドで解決するエネルギー・ソリューションで、あらゆる企業活動を支援したいと考えています。