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自然と共存する社会をつくる環境活動とエネルギーの未来〈前編〉アルピニスト・野口 健さん

財部誠一プロフィール

企業の社会的責任として、CO2排出量の削減といった環境負荷低減の取り組みが重要度を増してきました。 また、ビジネスを取り巻く環境も変わりつつあり、こうした変化への対応など、企業はさまざまな課題を抱えています。
「エネルギー提言」では、企業活動において重要な課題のひとつであるエネルギー活用の話題を中心に、各界リーダーのインタビュー記事を掲載しております。

4人めのゲストはアルピニストであり、エベレスト清掃登山や富士山の清掃活動など、環境活動にも取り組む野口健さんのインタビューについて前編をお届けします。

ヒマラヤの環境異変は地球全体の問題だ

僕は15年〜16年の間に40回くらいヒマラヤに登っていますが、その間もヒマラヤの自然環境は大きく変わってしまった。 そのひとつが氷河湖です。 気候の変化によってヒマラヤの氷河が溶け出し、氷河湖ができているんですが、決壊して洪水も起きている。 ネパールなどでは家が流されたりして、被害は深刻です。

日本には氷河がないから、氷河湖の拡大や決壊は「一部の国や地域に起きていること」と、どこか他人ごとのように感じるかもしれません。 けれど、今ヒマラヤで起きていることは、地球全体に関わってくる問題です。 僕はヒマラヤで起きていることを自分の目で見て、調べて、現地の危機感を世の中に伝えていかなければならないと思っています。

野口健さんの写真

「現地の危機感を世の中に伝えていかなければならないと思っています」

年間100人が7千人に。増えた清掃の参加者

地球温暖化の影響と言っても、日本で生活しているとあまりピンとこないかもしれません。 それでも日本の人たちの環境意識は、高くなったと感じています。 僕は2000年からエベレストの清掃登山や富士山の清掃活動を始めていますが、最近、富士山の清掃活動の参加者が増えましたね。 2009年には年間約6,800人が参加しています。 この活動は富士山の樹海でゴミを拾うのですが、拾っているうちについ奥に入り込んでしまって危ないんです。 そこで、一度の清掃活動で募る参加者はスタッフの目が届く人数、多くても300人に制限しています。 人数制限をしなければ、年間で万単位の人が集まると思います。
思い返せば富士山の清掃活動も1年目は年間100人くらいしか集まらなかった。 エベレスト清掃登山も世界で初めての取り組みでしたが、なかなか注目してもらえなくて。 当時の僕は「エベレストや富士山の清掃活動を世の中の人に広く知ってもらいたい」と思っていました。

エベレスト清掃登山の様子 野口健事務所提供

エベレスト清掃登山 野口健事務所提供

ゴミを見せたCMで活動の認知度がアップ

そんな時、飲料メーカーのテレビCMの依頼が来たんです。 僕は芸能人ではないから、飲み物を飲んでニッコリ笑うといったシーンを撮ることに違和感がありました。 それで広告代理店の人に「CMにエベレストで清掃活動をしている映像を入れられませんか。 映像は記録としてビデオに撮ってありますから」と相談したんです。 今のテレビCMには環境問題を扱ったものが多く見られますが、当時は広告代理店の人でさえ「コマーシャルは商品のキレイなイメージを出すもの」と言っていた時代。 「飲料のCMにゴミを出すなんてあり得ない」と却下されました。 それでも僕は粘って「飲料メーカーの本社は山岳環境に力を入れているスイスだから、スポンサーの共感が得られるかも」と考え、飲料メーカー本社に確認してもらった。 その結果、「山のゴミを拾う活動を広く世の中に知らせることに意味があるんじゃないか」と了解を得られました。
ゴミを拾う活動を全面に出したCMが流れると、富士山の清掃活動に人が集まるようになりました。 そういう意味では、あのCMには今でも感謝していますし、自分たちの活動を広く世に知ってもらうことの大切さを実感しました。

野口健さんの写真

「自分たちの活動を広く世に知ってもらうことの大切さを実感しました」

ガソリン車がない街、ツェルマットの取り組み

ヨーロッパの国に行くと、市民レベルの環境活動が進んでいるなと感じます。 たとえばスイスのツェルマット。 ここはマッターホルンのふもとにある街で、市民が地球環境に配慮した自主ルールを設けています。 ガソリンの自動車は一切禁止されていて、街を走るのは電気自動車か馬車。 しかも電気自動車を所有できるのはホテルやロッジだけで、市民はクルマを持てません。 外壁の色も決められているし、ベランダには花を飾るというルールもあります。 生活圏でそこまで徹底的に取り組むというのは、生活する市民も大変ですよ。 でも、ツェルマットの人たちはよくわかっているんですね。 徹底的にやれば自分たちの取り組みは高く評価され、結果的に世界中から観光客を呼べるということを。 自然環境に配慮し、街をキレイにすることで、観光客を増やして街の経済を豊かにする、そういう戦略にもなっているんです。

環境に配慮した自主ルールがあるというツェルマット(スイス)のイメージ写真

環境に配慮した自主ルールがあるというツェルマット(スイス) (注)写真はイメージです

不況でも企業は環境活動を続けて欲しい

ツェルマットの人たちは「自分たちが何をすれば、愛される街ができるのか。 たくさんの人が何泊も滞在してくれる街にできるのか」を考え、長い目で見て街の利益につながる取り組みをおこなっています。
これは、企業活動にも通じると思います。 今は、環境にやさしい技術や製品を提供する企業、CO2排出量の削減など環境活動に力を入れる企業が注目される時代です。 環境への取り組みが企業を評価する基準にもなっていますから、日本の企業は対応が早いし、活動にも力も入れている。 ところが不景気の今は環境活動の予算が削られたり、環境保全の取り組みがトーンダウンしている企業もあると聞いています。 「不況だからそれどころじゃない」となってしまうのでしょうが、一度始めた取り組みは縮小しても続けて欲しい。 状況が厳しい中でどう維持していくのか、取り組みを縮小しながらも次につなげていくことを考えて欲しいと思います。

野口健さんの写真

「環境への取り組みが企業を評価する基準にもなっています」

環境活動のための人材を育成しよう

厳しい時代の中で環境活動を続けていく、その方法のひとつとして人材育成があります。 従業員を研修というカタチで1年間、環境NPOで活動させるとか、大学で勉強させるといった取り組みをする企業もあります。 たとえば、実際に環境活動をおこなっているNPOと一緒に現場で活動することで、相当な知識・経験を蓄積することができます。 獲得した知識は企業の環境活動に反映され、より効果的な取り組みができるようになると思いますし、他の従業員も共有できるので、企業全体の財産になります。

僕の事務所では一人の男性スタッフに1年間大学におこなってもらいました。 富士山のゴミを減らすしくみを考えてもらうためです。 富士山のゴミを減らすには、ゴミを拾うだけじゃダメ。 ゴミを拾いながら、ゴミが出ないシステムをつくることが必要です。 海外の山では、登山者から入山料を取って自然保護に使ったり、山の自然を守るために入山規制をしています。 そういった海外の取り組みを参考にしながら富士山バージョンを考えてもらおうと、大学で学んでもらいました。 彼が得た専門知識は、僕自身の知識にもなり、次の活動につながっています。 これは人材育成という投資ですね。 すぐに成果は出ないかもしれませんが、この投資は必ずプラスになると思います。

現場に出ることで、次のアイデアが出る

先ほど話をした富士山の清掃活動にも、企業での参加が増えています。 始めた頃は、従業員を連れて来てゴミを拾うという企業はほとんどありませんでしたが、今は新入社員の研修とか、環境室や広報室といった部署の参加も多い。 話を聞いてみると「社内で取り組む環境活動を考えたが、みんなインターネットで調べた情報を出してくるので、同じようなアイデアしか集まらない。 デスクで考えるだけでは限界があるから、現場に出て汗を流すことにしました」と。 それで実際に富士山に来て、樹海に不法投棄されたゴミを拾うわけですが、拾っているうちに何かしら感じるものがあるんでしょうね。 会社に帰ってから「こういう活動をしましょう」と、いろいろなアイデアを積極的に出すようになるそうです。
環境に関する理論やデータを集めることも大切ですが、現場で実体験をするというアクションを起こしたことで、「環境のために自分たちが今できることは何か」を本気で考え、取り組むようになった。 これは、環境活動でとても大切なことだと思うんです。 まず、体を使って行動してみる。現場に出てみるとさまざまなよいアイデアが出てくると思うんです。

野口健さんの写真

「現場に出ればさまざまなアイデアが出てくると思うんです」

エネルギーは現実的に考えることが大事

従業員が本気で取り組んでいる企業の環境活動には、説得力があると思います。 本気でやっている企業は、自分たちの環境活動を社外の人に伝える時も誰かの受け売りではなく、自分の言葉で説明できます。 話を聞いている側も「あ、この会社は本気だな」と納得できる。環境について自分の言葉でちゃんと説明できるということは、企業にとって大切なことだと思います。

また、本気で考えなければならないと感じているものに、これからのエネルギーがあります。 エネルギーは企業活動にも、1億数千万人の日本人が生活していくためにも必要なもの。 だから現実的に考えないといけないと思うんです。 太陽光発電や風力発電の技術も進化していくと思いますが、大量の電力を安定供給できるようになるには、まだ時間がかかるでしょう。 そして、原子力は発電時にCO2を出さないこと、約30%の電力を原子力でまかなっているという現実もあります。 こうした現状を踏まえつつ、これからのエネルギーはどうすべきなのか、真剣に考える時期が来ていると思います。

野口健さんの写真
後編につづく

次回,この続きである後編の公開は4月下旬を予定しています。 引き続き野口さんに企業の環境活動、エネルギーの未来についてご提言いただきます。 お楽しみに。

【 中部電力から皆さまへ 】

私たち中部電力は、お客さまの現場での課題をカスタムメイドで解決するエネルギー・ソリューションで、あらゆる企業活動を支援したいと考えています。

バックナンバー

エネルギー提言vol6

Vol.6 価値あるモノづくりを支える人づくりと「活エネルギー」

エネルギー提言vol5

Vol.5 自然と共存する社会をつくる環境活動とエネルギーの未来

エネルギー提言vol4

Vol.4 成長する企業の条件と、エネルギーの未来

エネルギー提言vol3

Vol.3 経済成長と環境保全に貢献するエネルギーの可能性

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