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自然と共存する社会をつくる環境活動とエネルギーの未来〈後編〉アルピニスト・野口健さん

財部誠一プロフィール

企業活動に不可欠なエネルギーの話題をはじめ、取り組むべき課題であるCO2排出量削減などの環境活動について、各界のリーダーからのメッセージを掲載する「エネルギー提言」。
今回は、アルピニストの野口健さん。 前編では、企業の環境活動を中心にお話をうかがいました。 今回は、ヒマラヤのベースキャンプで太陽光を利用する話題をはじめ、CO2排出量を削減するためのヒントや、自然と共存する社会づくり、エネルギーについての考えをうかがいました。

ヒマラヤでは太陽光発電でパソコンを使う

地球温暖化の原因といわれるCO2の排出量を減らすために、企業はさまざまな取り組みをおこなっていると思います。 僕もゴミを拾う清掃活動にとどまらず、環境保全のために自分ができることを実行しようと思い、ヒマラヤの清掃登山にソーラーパネルを持って行くようになりました。 昼間はベースキャンプでソーラーパネルを使って発電して、夜はその電気を利用して音楽CDを聴いたり、パソコンを使ったりします。 僕の隊が使っているソーラーパネルは薄くて軽いので、クルクル巻いて持ち運びができますが、このパネルに出会うまではソーラーパネルといえば重くて、ヒマラヤなどの標高の高い場所に持って行くには不向きでした。 だからベースキャンプに発電機を持ち込んで、エンジンを回して電気をつくっていました。 今でも多くの登山隊は発電機を使っていますよ

僕らが使うソーラーパネルは丸めて持ち運びができるだけでなく、テントに縫いつけて使えるから便利です。 発電できる量も多く、他の隊の人たちが「充電させて欲しい」と僕らのテントの前に並ぶ。 そのうち充電代としてお金をとろうかなと思うくらい、行列ができます。 ソーラーパネルが縫いつけてあるテントは、ベースキャンプで異様なくらい目を引くんです。 ただでさえ僕たち清掃隊は他の登山隊から「あれが噂の清掃隊か」と注目されているのに、ソーラーパネルでさらに注目度が高くなった。 だけど、目立つことは悪いことじゃありません。

エベレスト清掃登山の様子

エベレスト清掃登山

燃料を使わずにお湯を沸かすチベット人の知恵

ソーラーパネルの他にも、チベットの人が昔から使っている道具を活用しています。 これは鏡でできたお椀のようなもので、中にやかんが置ける。 いわゆるソーラークッカーのようなものですね。 使い方は簡単で、太陽の向きに合わせて置くだけ。 鏡が太陽光を集め、その熱で30分もあれば大きなやかんの水を沸騰させることができます。 実はヒマラヤでお湯を作るのは大変なんですよ。 お湯を作るためには、まず雪を溶かして水にするわけですが、大きな雪のかたまりを溶かしてもほんの少ししか水はできないし、第一、寒いヒマラヤでは雪が溶けにくい。 だからベースキャンプでは一日じゅうお湯を沸かす作業に追われています。 多く登山隊はプロパンガスや灯油を使っていますが、燃料が途中で切れることもある。 その点、チベット人の道具なら、晴れてさえいればガスや灯油などのエネルギーを使わずに、お湯がたっぷり沸かせます。 シンプルなしくみだけど、よくできた道具ですよね。
僕がソーラーパネルやチベット人の道具を使うことで、どのくらいCO2排出量を削減でき、省エネができているのか、はっきりとしたことはわからないし、それほど大きな効果は出ていないかもしれません。 僕たちのやっていることを見て、環境に工夫されたものを使いたくなったり、誰かに教えたりして広まれば、環境保全へ成果を生み出すことになると思います。

野口健さんの写真

「僕たちのやっていることを見て、環境保全へ広がっていけばいいと思います」

日本では雨水を使った暖房を計画中

日本での生活でも自然を利用することを考えていて、まだ先のことになりますが雨水を活用したいと思っています。 どう利用するかと言えば、家の壁にパイプを入れて、そのパイプの中に温めた雨水を循環させて暖房するんです。 これはヨーロッパで使われている技術で、この方法なら家じゅうを暖めることができ、部屋ごとの温度差を解消できます。 雨水は飲み水としての利用は難しいかもしれませんが、トイレの水に使ったり、いろいろな活用ができる資源なんですよ。 使わない手はありません。

パートナーは環境に真剣な企業に

僕はヒマラヤやエベレストの清掃登山とか、前編でも話をした氷河湖の調査といった活動をしていて、企業とパートナーを組んでやっており、大手の企業も多くあります。 どの企業も、その企業活動のなかで、多くのCO2を排出しており、その現実を踏まえ、企業の社会的責任として環境保全に力を入れています。
電気も必要不可欠なものです。 エネルギーを使わない生活、すなわち現代の文明を捨てて暮らしていくことは、今さら無理ではないでしょうか。 大切なのは、今あるエネルギーをどう使いながら、環境保全活動にどう取り組んでいくのか、そのバランスだと思うんです。 僕がパートナーを組む企業に対して求めることは、その企業が本格的に環境活動に取り組んでいるかどうか。 それぞれの企業の環境活動をしっかり調べるし、パートナーを組むことが僕の生き方と矛盾しないか、慎重に考えたうえで決めています。

野口健さんの写真

「僕たちのやっていることを見て、環境保全へ広がっていけばいいと思います」

CO2削減のための、エネルギーの議論を

CO2排出量の削減という観点から、太陽光や風力といった自然エネルギーに注目が集まっていますが、火力発電は発電時のCO2排出量を抑える技術が開発されていますし、発電時にCO2を排出しない原子力発電もあります。 現代の便利で快適で豊かな生活を維持するためには、エネルギーを使わなければなりません。 今の社会を維持しながら、CO2を減らして地球環境との共存を図るためには、今後どういうエネルギーを選択していくのかをきちんと考えなければならないと思います。 イメージで決めるのではなく、冷静かつ真剣に議論を重ねていくことが必要だと思います。

環境問題は人の問題。環境活動は人が肝心

清掃活動を始めた当初は、自然を相手に取り組むことが環境活動だと思っていました。 けれども実際は動物や植物が環境を破壊しているわけじゃありません。 人間が便利や快適を求めてつくりだしたものが、結果的に環境に影響を及ぼしてしまったといえるのではないでしょうか。 だから環境問題で肝心なのは、人だと思っています。 一人ひとりが今の地球環境の状況を自分の問題としてとらえ、自分にできることから取り組んでいく。 それが大事なんです。けれど、一人でできることは限られています。 アクションを起こすこと、世の中に訴えていくことはできるけど、環境と共存する社会をつくる、そのための活動をすべて一人でおこなうことはできません。 それは企業も同じです。CO2排出量を抑え、地球環境と共存できる社会をつくるために、企業も行政もNPOもすべての人々が立場を超えて、連携していくことが大切だと僕は考えます。

野口健さんの写真

「すべての人々が立場を超えて、連携していくことが大切だと僕は考えます」

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バックナンバー

エネルギー提言vol6

Vol.6 価値あるモノづくりを支える人づくりと「活エネルギー」

エネルギー提言vol5

Vol.5 自然と共存する社会をつくる環境活動とエネルギーの未来

エネルギー提言vol4

Vol.4 成長する企業の条件と、エネルギーの未来

エネルギー提言vol3

Vol.3 経済成長と環境保全に貢献するエネルギーの可能性

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